なぜなくならない？SNS有名人なりすまし広告クリックすると… - Easy News

「残念ざんねんで悲かなしくて、正直しょうじき怒おこってます。いいかげんにしてくれと」

インタビュー取材しゅざいに応おうじた前澤まえさわ友作ともさくさんは開口かいこう一番いちばん、こう語かたった。

SNSで毎日まいにちのように目めにする、有名人ゆうめいじんになりすまして投資とうしを呼よびかけるフェイク広告こうこく。それをきっかけに、大金たいきんをだましとられる人ひとが後ごを絶たたない。

今いま、あなたのタイムラインに表示ひょうじされているその有名人ゆうめいじん、本物ほんものですか？

「納得なっとくいかない」

これはフェイスブックやインスタグラムのSNSで見みられた前澤まえさわさんの名前なまえをかたる偽にせの広告こうこく。

去年きょねん8月つき以降いこう、少すくなくとも700件けんが表示ひょうじされ、今いまでも数すう十じゅう件けんが残のこるなど、毎日まいにち、表示ひょうじされ続つづけている。

自身じしんの名前なまえや画像がぞうが勝手かってに使つかわれていることについて抗議こうぎした前澤まえさわさんに対にたいし、運営うんえいするアメリカのMeta社しゃは「AIや人手ひとでを使つかって詐欺さぎ広告こうこくと思おもわれる広告こうこくはなるべく削除さくじょするよう善処ぜんしょしているが、すべての問題もんだいを解決かいけつすることは難むずかしいので理解りかいしてほしい」と回答かいとうしてきた。

前澤まえさわさん

「いやいやいや、すべて消けしてくださいよと。だって僕ぼくの写真しゃしんが使つかわれて、何なん百ひゃく万まん円えん、何なん千せん万まん円えんと被害ひがいにあっている人ひとが目めの前まえにいらっしゃるんですよ。しっかり1件けん1件けん広告こうこくをチェックして、詐欺さぎ広告こうこくを撲滅ぼくめつしましょうよ！納得なっとくいきません」

みずから対処たいしょチームを立たち上あげ

前澤まえさわさんは、去年きょねん、なりすまし広告こうこくに対処たいしょする専門せんもんチームを立たち上あげた。3月つきに新あらたに通報つうほう窓口まどぐちを開設かいせつしたところ、10日間にちかんで180件けん余あまりの「被害ひがい報告ほうこく」が寄よせられた。

被害ひがい額がくを合あわせると、およそ20億おく円えん。1人にんで1億おく円えんを超こえる被害ひがいを訴うったえる人ひともいて、警察けいさつに対策たいさくと捜査そうさを要請ようせいしたという。

相次あいつぐ有名人ゆうめいじんのなりすまし

前澤まえさわさんが設置せっちした通報つうほう窓口まどぐちには、ほかの有名人ゆうめいじんのなりすまし広告こうこくをきっかけにだまされたという被害ひがいの訴うったえも届とどいている。

実業じつぎょう家かの堀江ほりえ貴文たかふみさん、経済けいざいアナリストの森永もりなが卓郎たくろうさん、旧きゅう・村上むらかみファンドの村むら上世じょうせい彰あきらさん…

最近さいきんでは、プロテニス選手せんしゅの大坂おおさかなおみさんや、ジャーナリストの池上いけがみ彰あきらさんなど、投資とうしとは無関係むかんけいと思おもわれる人ひとたちも。

なりすまし被害ひがいの相談そうだんがよせられた有名人ゆうめいじん（敬称けいしょう略りゃく）

堀江ほりえ貴文たかふみ、村上むらかみ世よ彰あきら、森永もりなが卓郎たくろう、中田なかた敦彦あつひこ、桐谷きりたに広人ひろひと、三木みき谷たに浩史こうじ、大坂おおさかなおみ、池上いけがみ彰あきら、岸きし博幸ひろゆき、西村にしむら博之ひろゆき

去年きょねんから急激きゅうげきに増ふえていて、その広告こうこくのほとんどが、インスタグラムとフェイスブックだったという。

前澤まえさわさん

「Meta社しゃがやっていることは詐欺さぎ行為こういの助長じょちょう、応援おうえんですから、明あきらかに社会しゃかい的てき責任せきにんを果はたせていません。すぐさま詐欺さぎ広告こうこくを完全かんぜんに撲滅ぼくめつすると宣言せんげんをして、広告こうこく主ぬしが安心あんしんして広告こうこくを出稿しゅっこうできるプラットフォームにしていくべきです」

SNS広告こうこくが入り口いりくちに

偽にせのSNS広告こうこくをクリックしてしまうと、どうなるのか？

実際じっさいに800万まん円えんをだまし取だましとられた男性だんせいに話はなしを聞きくことができた。

退職たいしょく前まえは、大手おおての製造せいぞう会社かいしゃでマーケティングを担当たんとうしていたという70代だいの男性だんせい。

きっかけは経済けいざい評論ひょうろん家かの”森永もりなが卓郎たくろうさんが投資とうしのアドバイスを行おこなう”というインスタグラムの広告こうこく。それをクリックすると、LINEでの友達ともだち登録とうろくを促うながされた。

LINEでは森永もりながさんを名乗なのるアカウントが家族かぞくの話はなしなども持ち出もちだして信用しんようさせようとしてきたという。

さらに、森永もりながさんを名乗なのるアカウントは”SNSは苦手にがて”として、「アシスタント」を紹介しょうかい。そのアシスタントは毎日まいにちのように、メッセージを送おくってきたという。

被害ひがい男性だんせい

「けっこう、マンツーマンでサポートする感かんじでした。はじめは疑うたがっていましたが、3か月かげつやり取やりとりを続つづける間まに、大丈夫だいじょうぶなんじゃないかなという気きになってしまいました」

やり取やりとりを続つづけていると、50ページに及およぶ未み公開こうかい暗号あんごう資産しさんのプロジェクト資料しりょうが届とどいた。

「NEV（New Energy Vehicle）」（新あたらしいエネルギーの車くるま）

電気でんき自動車じどうしゃ事業じぎょうへの投資とうしを、ブロックチェーン技術ぎじゅつを応用おうようした暗号あんごう資産しさんで行おこなうというものだ。

資料しりょうには「量子りょうしもつれ暗号あんごう」、「ゼロ知識ちしき証明しょうめい」など、いかにもそれらしい文言もんごんがちりばめられている。

さらに、資産しさんを管理かんりするための専用せんようのアプリのダウンロードも促うながされた。男性だんせいは200万まん円えんを投資とうしし、投資とうしするとアプリで毎日まいにち資産しさんが順調じゅんちょうに増ふえる様子ようすを確認かくにんしていたという。

広告こうこくをクリックして3か月かげつ後ご、暗号あんごう資産しさんの価値かちが目標もくひょう金額きんがくに届とどいたため、出金しゅっきんしたいと依頼いらいすると…

「税金ぜいきんがかかる」「手数料てすうりょうがかかる」「投資とうし額がくが少すくないので追加ついかする必要ひつようがある」

次々つぎつぎと追加ついかの入金にゅうきんを要求ようきゅうしてきたという。

「だまされたかもしれない」

そう思おもいながらも、投資とうしした分ぶんを取り戻とりもどしたいとその後そのごも要求ようきゅうに応おうじてしまい、最終さいしゅう的てきに800万まん円えんをだましとられてしまったという。

被害ひがい男性だんせい

「ふだんはECサイトのなりすましや、懸賞けんしょうが当あたったというDMなど、怪あやしいものは警戒けいかいして引っ掛ひっかかることはなかったんです。でも、今回こんかいは森永もりながさんという著名ちょめいな方ほうということに加くわえ、やり取やりとりが緻密ちみつに計画けいかくされていました。彼かれらが今いまもどこかで同おなじような詐欺さぎ行為こういをしていると思おもうと、腹立はらだたしい」

SNS型がた投資とうし詐欺さぎ 278億おく円えんの被害ひがい

こうしたSNSきっかけの投資とうし詐欺さぎの手口てぐちの取材しゅざいを進すすめると、共通きょうつうした特徴とくちょうが見みえてきた。

広告こうこくには「新しんNISA」「AI投資とうし予測よそく」など、トレンドにあわせた目めを引ひくキーワードが使つかわれている。

そして、有名人ゆうめいじんの画像がぞうのSNS広告こうこくをクリックすると、LINEのグループチャットの登録とうろくへと誘導ゆうどう。

LINEのグループチャットでは、おおむね数すう十じゅう人にんから100人にん程度ていどが参加さんかしていて、投資とうしについて頻繁ひんぱんに意見いけんを交かわしている。

株かぶのチャートの画像がぞうや利益りえきが出でたという話はなしなどが共有きょうゆうされるほか、ごはんの話題わだいなど、投資とうし好すきのチャットのメンバーが集あつまって気軽きがるに情報じょうほう交換こうかんする場ばになっている。

被害ひがい金額きんがくも大おおきい。

警察庁けいさつちょうによると去年きょねん1年間ねんかんで被害ひがい額がくが、およそ277億おく9000万まん円えん。

被害ひがい者しゃは2271人にんで、男性だんせいは50代だいから60代だい、女性じょせいは40代だいから50代だいが多おおかった。

また、男性だんせいはフェイスブック、女性じょせいはインスタグラムから誘導ゆうどうされた人ひとが多おおかった。

有名人ゆうめいじんのインタビュー記事きじ装よそおう誘導ゆうどうも

有名人ゆうめいじんのなりすましはSNS広告こうこく以外いがいに、メディアのインタビュー記事きじを装よそおったものも増ふえている。

例たとえば、読売よみうり新聞しんぶんを装よそおったこの記事きじ。

宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくへのインタビュー記事きじのような体裁ていさいをとっているが、「日本にっぽん銀行ぎんこうが生なま放送ほうそうの発言はつげんで提訴ていそ」などと内容ないようは全まったくのフェイクだ。

サイバーセキュリティー企業きぎょうのマクニカと一緒いっしょに分析ぶんせきすると、このインタビュー画像がぞうは、別人べつじんへのインタビューを行おこなった際さいの画像がぞうを加工かこうしたものと見みられることが分わかった。

そして、このサイトのリンク先さきを開ひらくと、暗号あんごう資産しさんへの投資とうしを促うながす不審ふしんなサイトにつながった。電話でんわ番号ばんごうなどの登録とうろくが必要ひつようなことから、お金おかねや個人こじん情報じょうほうをだましとるためのサイトではないかと考かんがえられるという。

また、こうしたサイトのほとんどは広告こうこく経由けいゆでブラウザによるアクセスの場合ばあいに限かぎり表示ひょうじされるよう高度こうどな技術ぎじゅつが使つかわれていることが分わかった。

分析ぶんせきを行おこなったエンジニア

「スマホのセキュリティアプリなどでの検知けんちを逃のがれるためだとも考かんがえられ、多おおくのスマホユーザーにとって非常ひじょうによくない状況じょうきょうだ」

同おなじく「日本にっぽん銀行ぎんこうが生なま放送ほうそうでの発言はつげんで提訴ていそ」というフェイクニュースのタイトルで、「朝日あさひ新聞しんぶん」や「TOKYO MX」などを装よそおった記事きじも確認かくにんされている。

また「NHK」を装よそおう偽にせニュース記事きじも出でている。伊藤いとう忠ただし商事しょうじの岡おか藤ふじ会長かいちょうのインタビュー記事きじを悪用あくようし、暗号あんごう資産しさんへの投資とうしを呼よびかけるような偽にせの文章ぶんしょうが書かき加くわえられていた。

NHKが調しらべると、このサイトのプロバイダーはフランスにあり、削除さくじょ要請ようせいを行おこなった。

しかし、削除さくじょされても、こうした偽にせの記事きじは次々つぎつぎと複製ふくせいされ、後ごを絶たたないのが現状げんじょうだ。

後手ごてに回まわるプラットフォーマー

3月つき、インターネットの誤あやま情報じょうほうや偽にせ情報じょうほうの対策たいさくなどを検討けんとうする総務そうむ省しょうの会議かいぎが開ひらかれた。

この会議かいぎに呼よばれた、Meta社しゃの担当たんとう者しゃは、なりすまし広告こうこくへの対応たいおうを聞きかれ、禁止きんしのルールを設もうけていると説明せつめい、対応たいおうも行おこなっていると説明せつめいした。

・広告こうこく宣伝せんでんポリシーの中なかで、有名人ゆうめいじんの許可きょかなくして有名人ゆうめいじんの画像がぞうや動画どうがを使つかってはならないとしている
・有名人ゆうめいじんの写真しゃしんなどを使つかって無断むだんで製品せいひんプロモーションを行おこなう、不正ふせいな詐欺さぎ行為こういをする、あるいはそれによって何なにかクリックさせるというようなことはすべて禁止きんししている
・なりすまし行為こういをしたアカウントは削除さくじょしている

NHKの取材しゅざいに対にたいしても、「ポリシーに違反いはんする悪質あくしつな業者ぎょうしゃがいることも認識にんしきしています。ポリシーをかいくぐる様々さまざまな手口てぐちが出でてきており、閲覧えつらん者しゃからの報告ほうこくツールを通をつうじて違反いはんの可能かのう性せいがある広告こうこくを検出けんしゅつし、適宜てきぎ措置そちを講こうじています。また、広告こうこく主ぬしの行動こうどうを監視かんし・調査ちょうさしていて、規定きていやポリシーなどに従したがわないアカウントを制限せいげんする場合ばあいもあります。悪質あくしつな行為こういを行おこなっている業者ぎょうしゃは、責任せきにんを追及ついきゅうし場合ばあいによっては、法的ほうてき措置そちを取とっており、今後こんごとも利用りよう者しゃの皆様みなさまに有意義ゆういぎな広告こうこくを届とどけられるようさらに注力ちゅうりょくしていきたいと考かんがえております」と答こたえている。

しかし、なりすまし広告こうこくはSNSから消きえず、出で続つづけている。

私わたしたちがこうした広告こうこくを詳くわしく調しらべたところ、掲載けいさい期間きかんを数すう日間にちかんに設定せっていしてあるものがほとんどだった。運営うんえい側がわの監視かんしの目めを逃のがれるためとも考かんがえられる。

運営うんえい側がわが怪あやしいアカウントを見みつけて削除さくじょしたとしても、すぐに別べつのアカウントが現あらわれるのが現状げんじょうだが、広告こうこくを出だす前まえに止とめることが求もとめられている。

アカウントは怪あやしいが…

こうした広告こうこく主ぬしのアカウントを調しらべると、電話でんわ番号ばんごうがただの数字すうじの羅列られつだったり、アカウントの住所じゅうしょが海外かいがいの道路どうろ上じょうだったり、明あきらかにおかしな点てんが多おおく確認かくにんできた。

そもそも、こうした不審ふしんなアカウントが、なぜ広告こうこくを出だせてしまうのか。

SNSのネット広告こうこくは個人こじんや個人こじん事業じぎょう主おもでも登録とうろくすれば、比較的ひかくてき簡単かんたんな審査しんさで広告こうこくを出だせる仕組しくみになっていて、その数かずはあまりに多おおい。

このため審査しんさ自体じたいが不十分ふじゅうぶんなまま掲載けいさいされているケースも多おおいのが現状げんじょうだ。

弁護士べんごし “プラットフォーム側がわにも責任せきにん”

インターネットと個人こじん情報じょうほうの問題もんだいに詳くわしい板倉いたくら陽一郎よういちろう弁護士べんごしは、広告こうこくを掲載けいさいするプラットフォーム側がわの責任せきにんについて次つぎのように指摘してきしている。

板倉いたくら弁護士べんごし

「偽にせ広告こうこくは明あきらかにいろいろな法律ほうりつに違反いはんするので、あまりにも長ながく放置ほうちしているとなれば、民法みんぽう上じょうの不法ふほう行為こういにあたるだろうし、偽にせ広告こうこくの目的もくてきが刑事けいじ罰ばつにあたるような行為こういであれば共犯きょうはんであるとか、場合ばあいによっては共同きょうどう正犯せいはんというところも考かんがえられなくはないだろう」

なりすまし見抜みぬけるか

今回こんかいの取材しゅざいでは、だまされた人ひとたちの多おおくは、やり取やりとりしている相手あいてが、有名人ゆうめいじんや有名人ゆうめいじんのアシスタントなど、本人ほんにんだと思い込おもいこんでしまっていた。

ただ、だまされないためにはいくつかポイントがあった。

ひとつは、ということ。

「海外かいがいの暗号あんごう資産しさんの取引とりひき所しょは権限けんげんが必要ひつようなので代行だいこうする」などともっともらしい文句もんくで入金にゅうきんを勧すすめてくることもあるが、個人こじん名義めいぎの口座こうざを使用しようするのは、特定とくていされることを逃のがれるための詐欺さぎの典型てんけい的てきな手口てぐちで、警察けいさつも注意ちゅういを呼よびかけている。